Story

第2次世界大戦。
世界が分かれ、多くの死者を出した大戦。

その終結から5年後、戦勝国に分割されたかつての列強国ドイツ。
当時の軍幹部は捕らえられ、裁判を経て処刑されていき、戦後処理が進められ――
人々は自由を制限されながらも復興に向け、一歩ずつ歩き始めていた時代。

1950年。
ドイツの秘密警察に所属していたエリザベート・ツィックラーは、身を潜めながら戦後の日々を過ごしていた。

彼女は本来、音楽を愛する心の優しい少女だった。
幼少期より親しんできたピアノと共に歩む道を目指していたが、戦争に夢を阻まれ、軍属を余儀なくされてしまう。

優しかった彼女は当然、軍属を拒んだ。
しかし家族を人質に取られ、やむなく軍人となる道を辿らざるを得なくなったのだった。

時を経て今。
彼女の心に去来するのは戦時中の忌まわしい記憶。
心を無にし、政治犯を追い続ける秘密警察として活動した日々。
その氷のように冷酷さから「戦乙女」とまで呼ばれた日々。
そして、それに至った「とある実験」についての――

戦時中の記憶は彼女にとって忘れたい記憶だ。
しかしそんな忌まわしい過去を、すべて忘れ去ることはできない。
それでもひと時でも忘れられる時間があるならば、それは彼女がピアノを奏でている時間だけだろう。

1950年の秋、満月が照らす夜。
鬱蒼と木々が生い茂り人も立ち入らないような森の中、そこにひっそりと経つ小さな家。
エリザベートは、ここで日々を過ごし、夜になればピアノを弾く。

闇を見れば蘇るあの記憶に抗うように、今夜も音色を奏で続けていたが……

「過去」は、彼女を逃したりはしなかった。